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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)146号 判決 1975年12月23日

原告

左近兵太郎

ほか一名

被告

松下電気産業株式会社

ほか一名

主文

被告一幡清喜は、原告左近兵太郎に対し、金二、〇九五、二五七円およびこれに対する昭和四九年五月九日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告左近ヨネに対し、金九二、四〇〇円およびこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告らの負担とし、その二を被告一幡清喜の負担とする。

この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは各自、原告左近兵太郎に対し、金五、七七〇、七二〇円原告左近ヨネに対し、金二二二、五〇〇円および右各金員に対する昭和四九年五月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四九年五月八日午後五時一〇分頃

2  場所 大阪府門真市門真町六八六番地先路上

3  加害車 自家用乗用自動車(神戸五五は一九七二号)

右運転者 被告一幡清喜(被告会社従業員)

4  被害車 原動機付二輪車カブ号(大阪市城あ六三八二号)

被害者 原告左近兵太郎(プレス工)六一才

5  態様 原告兵太郎が被害車を運転して前記番地先道路左側車線を南進中その前方を被告一幡が加害車を運転して右道路を西から東に向けて横断し加害車両左側部付近を被害車前部に衝突させ、転倒させた。なお詳記すれば原告兵太郎は事故当日五〇CCの単車で事故現場手前の交差点を北から南に向けて青信号で通過し、自動進行車線左側を直進していたが、その際進路前方左側に背の高い小型車が停車していたので、同原告はこれを避けるため自車線やや中央寄りへ退避しながら反対車線上へ進行してきた対向車とすれちがつて間もなく、被告一幡運転の車が突如右原告の単車の前方へ道路外より突入してきたので、右原告は加害車との衝突を避けようとして、とつさに道路中央線寄りに回避せんとしたが、右加害車両が停止することなく強引に突進してきたため右原告は道路中央付近で加害車の側部に追突されたうえその勢いで右原告単車の前部を加害車両に引つかけられるようにして右加害車の進行方向に引きずられ、右原告自身は道路中央線付近に投げ出されたもので、本件事故は被告一幡の一方的過失によるものである。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自賠法三条)

被告一幡は、加害車を所有し、業務用に使用し、自己のために運行の用に供していた。

被告松下電器産業株式会社(以下単に被告会社という)については、被告一幡が当時出入していた駐車場付近一帯は被告会社の使用する敷地であり、右駐車場も被告会社の従業員の専用駐車場であり、事実上は被告会社の車の専用駐車場と同じく被告会社が制定した「車の運行管理規定」により、被告会社録音機事業場長の運行管理下にあつたものである。

本件事故は被告一幡が自車を運転し道路外の被告会社従業員ら専用の駐車場から道路を横断し、被告会社録音機事業部構内に乗入れる際に発生したもので、被告一幡運転の加害車両は被告会社の右事業場内で停止するに至つたもので、本件事故は被告会社の事業場の支配領域内の事故とみられるべきものである。

現に被告会社は本件事故を前記被告会社の事業場における事故と同視し、被告会社の業務規定である前記「車の運行管理並びに事故処理規程」に基づき処理している。

本件事故は被告会社録音機事業場の支配可能な領域、すなわち具体的には被告会社東門前にある被告会社従業員の専用駐車場から右事業場へ乗入れる際に生じた事故でありかつ被告会社は日頃から被告一幡ら従業員の自家用車による通退勤並びに右マイカーの事業場内への乗入れ(持込み、持返り)を認め、右従業員の車の運行についても被告会社制定の「車の運行管理並びに事故処理」規程を適用し、被告会社(事業場)の支配領域内における従業員の車の運行管理につき被告会社の支配を及ぼしていたものである。

このように本件事故は時間的には退社直前(準備中)の事故であるだけでなく、場所的にも被告会社録音機事業場の支配領域内で発生した事故であるから、被告一幡の本件運転行為は被告会社の運行管理の権限と義務の及ぶ範囲での行為であつたといわねばならず、従つて被告会社は本件交通事故について自ら制定した業務規定に基づき車の運行管理者としての責任を負担すべきものである(自動車損害賠償保障法三条)。

2  使用者責任(民法七一五条一項)

被告松下電器産業株式会社は、被告一幡を雇用し、同人が被告会社の業務の執行として加害車を運転中、後記過失により本件事故を発生させた。即ち先に詳記したとおり本件事故の原因となつた被告一幡の運転行為は退社直前における事業執行現場乗入れ行為であつて、時間的場所的に被告会社の支配領域内における運転行為であるから、被告一幡の職務に外形上客観的に密接に関連した行為である。

3  一般不法行為責任(民法七〇九条)

原告左近運転の被害車が制限速度内で自車線を走行中において、被告一幡運転の加害車が交差点以外の南北直進道路を道路側面より横断することは、直進車との衝突の危険が極めて大きいので、被告一幡は自車による道路横断を差控えるか、もしくは道路脇に一時停止したうえ、道路の前後左右を注視し直進車両の動静を確認し、安全を期して横断すべき注意義務があるのに、被告一幡はこれを怠つた過失により加害車右側部を被害車前部に衝突させ転倒させた。

三  損害

1  原告兵太郎の受傷、治療経過等

(一) 受傷 頭頸部挫傷、頸椎捻挫、頸椎間関節症頭部外傷Ⅱ型、左上肢打撲傷、右足関節挫傷等

(二) 治療経過

入院

昭和四九年五月八日から同年五月二二日まで

生井診療所

昭和四九年五月二二日から同年七月七日まで

松尾外科病院

通院

昭和四九年七月八日から同年一一月二八日まで

松尾外科病院(内実治療日数九八日)

昭和四九年一一月二九日から昭和五〇年六月一六日まで

大阪赤十字病院(内実治療日数七六日外に自宅安静加療を含む)

(三) 後遺症

原告兵太郎は本件受傷による後遺症のため日夜強度の頸部痛、左肩、腕関節痛、頭痛、めまい、嘔気に悩まされ、一日平均三時間程度しか眠れない。

2  治療関係費

(一) 治療費 七三、三五〇円

内訳

大阪赤十字病院分 四一、九五〇円

マツサージ治療費 三一、四〇〇円

(二) 入院雑費 四四、三〇〇円

入院中一日五〇〇円の割合による六二日分及び病院長、看護婦に対する謝礼

(三) 通院交通費 一八、〇〇〇円(一回につき一八〇円)

3  逸失利益

(一) 休業損害

原告は事故当時六一才で、株式会社弥生金属製作所にプレス工として勤務し、一カ月平均七二、八五〇円の収入(賞与を含まず)を得ていたが、本件事故により、昭和四九年五月八日から昭和五〇年六月一八日まで休業を余儀なくされ、その間一、二一六、九〇五円の収入(一三・三カ月分の給与九六八、九〇五円と昭和四九年八月と一二月に支給された賞与二四八、〇〇〇円の合計額)を失つた。

(二) 将来の逸失利益

原告兵太郎は昭和五〇年六月一六日現在で六二才であり、平均余命の範囲内でなお八年間はプレス工として就労でき一カ月七二、八五〇円(日額二、九一四円×二五日稼働)の割合による給与と年間二四八、〇〇〇円の割合の賞与による収入を得られた筈であるところ、前記受傷による強度の頸部痛、頸部運動制限、左肩関節運動制限等のためプレス工としての具体的な労働能力を四〇%以上失つた。その現価をホフマン式で計算した金額(原告兵太郎は左利きであるが、右頑固な頸部痛及び左肩関節周囲炎に伴なう左腕関節痛と左肩関節運動制限のため生涯プレス工として就労することは全く不可能となつた。)

算式 一、一三二、二〇〇×七、二七八×〇・四=三、二九六、〇六〇円

4  慰藉料 二、二四〇、〇〇〇円

入通院 一、〇〇〇、〇〇〇円

後遺症 一、二四〇、〇〇〇円

5  弁護士費用 四〇〇、〇〇〇円

(以上 左近兵太郎分)

左近ヨネの休業損及び慰藉料

原告左近ヨネは 日給二、三〇〇円、月平均二五日稼働して月額五七、五〇〇円以上の給与を得ていたが、昭和四九年五月八日より七月三一日までの間夫左近兵太郎の入通院付添看護のため約三カ月間の休業を余儀なくされ、そのため夏期賞与五〇、〇〇〇円とその間の給与額の収入を失つた外夫受傷の看護づかれから、余病を併発し入院する羽目になつた。

この結果右ヨネは二二二、五〇〇円の損害を被つた。

四  本訴請求

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。)を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁

被告一幡、被告会社(松下電器産業株式会社)

一の1ないし4は認める(但しプレス工の点は不知)が、5は争う。

被告一幡

二の1は認める。

被告会社

二の1、2につき、被告一幡が被告会社の従業員である点を除き否認。

被告会社は個人所有の車を業務に使用することを禁じているし、もちろん被告一幡にこれを許したこともない。

原告左近兵太郎と被告一幡の各所有運転する車によつて本件事故は発生した。被告一幡は被告松下電器(以下たんに被告会社という)の従業員ではあるが、本件事故は左の諸点から被告会社の業務とは無関係であり、従つて、被告会社に運行供用者ないし使用者として責を負うべき筋合はない。

一  本件事故は被告一幡の会社業務終了後に起きたものである。

同被告の配属されている録音機事業部の終業時刻は午後四時四五分であるが、事故のあつた昭和四九年五月八日は残業もなく、従つて事故発生の午後五時一〇分には既に仕事を終えていた。

なお原告は、本件事故は同被告の退社直前(準備中)に生じた旨主張するが、後記のとおり同被告車は通勤自家用車であつて、しかも事故発生地点が録音機事業部構外であつたから退社後の事故であることは言うまでもない。

二  本件事故は、被告一幡の退社後、被告会社録音機事業部の構外たる同事業部東門前路上にて発生したものである。

原告は、本件事故が右事業部の支配領域内で発生したというが、被告一幡の車は訴外中道繁三郎所有の有料駐車場出入口から発進して、右事業部東側の公の道路上にて原告兵太郎の車と衝突したものであるから、原告の右主張は失当である。

三  被告一幡は被告会社録音機事業部第一工場の製造管理課にあつて、製造工程の設備機械の設計、導入、管理、補修をその職務としていたものである。かかる業務は自動車の運転とは無縁であつて、同被告はその自家用車を通勤にのみ使用していたのである。

四  被告会社においては、「個人所有の車はこれを業務に使用してはならない。」(車の運行管理ならびに事故処理規程第六条(4))旨定めておりもちろん被告一幡が自己の車を業務に使用したことは一度もない。

なお右規程は、従業員の自家用車にはその適用のないものである(同規程第二条)。

五  被告会社録音機事業部においては従業員のいわゆるマイカー通勤の便宜を図つて、「通勤自家用車駐車利用許可基準を定め構内および構外指定駐車場の利用を許可しているが、被告一幡からは右許可の申請すらなく、同被告のマイカー通勤については被告会社の全く関知せさるところであつた。

被告一幡

二の3は争う。

被告会社

2の3は不知

被告一幡、被告会社

いずれも三は不知

第四被告らの主張

一  免責

被告一幡は左右の安全を確認し、本道路東側の駐車場から西進して本道路を横断しようとし、中央線を超えたところ、本道路を北から南進してきた原告車が中央線を右に超えて進行し被告車右側の後部辺に衝突したものである。

被告一幡には過失がなく、一方原告には左側通行、安全確認ないし前方注視の注意義務を怠つた過失がある。

また加害車には構造上の欠陥または機能の障害がなかつたから、被告一幡には損害賠償責任がない。

二  過失相殺

仮りに免責の主張が認められないとしても、本件事故の発生については原告にも前記のとおりの過失があるから、損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。

三  損害の填補

本件事故による損害については、次のとおり損害の填補がなされている。

1  自賠責から七五〇、〇〇〇円

内訳 松尾外科治療費として四五〇、〇〇〇円

生井診療所治療費として二八五、七三〇円

原告左近兵太郎へ一四、二七〇円

2  被告一幡清喜から

(一) 生井診療所治療費として五〇、〇〇〇円

(二) 松尾外科治療費として二七、九二〇円

第五被告らの主張に対する原告左近兵太郎の答弁

三 損害の填補1及び2の(一)の事実は認めるが、これらはいずれも本訴請求外である。

理由

第一事故の発生

請求原因一の1ないし4の事実は、当事者間に争がなく、

同5の事故の態様については後記第二の三で認定するとおりである。

第二責任原因

一  被告一幡の運行供用責任

請求原因二の1の事実は、被告一幡については当事者間に争がない。従つて、被告一幡は自賠法三条により、後記免責の抗弁が認められない限り、本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

二  被告会社(松下電器産業株式会社)の運行供用者責任及び使用者責任の有無について

〔証拠略〕によればさきに認定した本件事故発生当時被告一幡は被告会社録音機事業部第一工場製造管理課工務係員であつて、設備の保全、改善の仕事を担当し、業務の内容としては屋内でする仕事ばかりで構外に出ることはないこと、被告一幡所属の録音機事業部の終業時刻は午後四時四五分であり事故当日も被告一幡は右時刻に勤務を終えて帰宅のため退出していること、被告会社においては被告一幡所有の車を含めて従業員個人所有の車を業務に使用することは一切なく、車の運行管理ならびに事故処理規程においてもその六条(4)に「個人所有の車はこれを業務に使用してはならない」と定めておること(実際上も使用していることを推認させる証拠はない)。さらにこれまでにも被告一幡の車を現実に業務に使い又は使わせたという事実も認められない。

なお被告においては従事員に対し実際に事故の起つた場合のことを考え、ヘルメツトの着用とか、保険加入の指導等のため自家用通勤者には会社えの届出をさせ、被告会社専用駐車場使用には被告会社の許可を得させる扱いとなつておるが、被告一幡においては本件加害車を時たま通勤に使う程度であつたので右の届出もしていなければ許可も受けていないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上の認定事実によると、被告一幡としては加害車をもつぱら自己の通勤のためにのみ使用していたところ、退勤後帰宅途中本件事故を起こしたというのであつて、本件は被告一幡が自己所有車により通勤(帰宅を含む)途中の事故ということができる。

ところで被用者が雇用先の事業所などに通勤する行為は使用者に対する労務提供のための準備行為として間接的には使用者の利益になるとも考えられるけれども、反面通勤中はもはや使用者の指揮命令による支配を離脱し、全く被用者の自由な活動範囲に属するものであるから、被用者の通勤車利用行為をもつて使用者のための自動車の運行ないし業務執行と言うことは困難である。

従つて使用者が被用者所有の自動車を事故当時業務執行に利用していたとか或いは客観的外形的ないし一般的抽象的にみて事故時の運行行為が使用者のための運行ないし業務執行と解し得るような特別事情のある場合は格別一般的には被用者の通勤車使用中の事故につき使用者が自動車損害賠償保障法三条ないし民法七一五条に基づく責任を負わないものと解するのが相当である。

本件についてこれをみるに前示認定事実からは右の特別事情の存在を認めるに由なく、被告会社の運行供用者ないし使用者としての責任はこれを認めることができない。

三  事故の態様と被告一幡の過失の有無について

〔証拠略〕によれば、本件事故は、被告一幡がさきに認定した事故発生の日時ごろに自分の車をおいてある駐車場から車を乗り出し、駐車場前の左右の見とおしのよい幅員七・六メートルの本件現場道路を横切つて前記駐車場と右道路をはさんで真向いにある被告会社録音機事業部構内を通抜けて中央環状線を抜けて家に帰るつもりで、右七・六メートルの道路を横断している際発生したもので、右駐車場を出る際被告一幡は自車を右車道に一・三メートル程出した時点でまづ右方(北方)をみたところ、右方約二一・四メートルの地点に左折後南進せんとする態勢の普通車(カローラ)をみたが他に南進してこようとする車がなく、つぎに左方をみたところ、ずつと離れた所に北進中の車があつただけなので、時速一〇キロメートル前後で発進して約七・二メートル進行したところで(車体全部が中央線を西に超えていた)、被告車右後輪上部フエンダー部が道路中央部を進行してきた原告車前部と衝突したことが認められる。

もつとも〔証拠略〕によれば前記左折態勢にあつた車はなく、右幅員七・六メートルの道路左方を直進中前方左側に小型車が駐車しており駐車車両をさけながら対向車とすれちがい、それから一五メートルくらい走つているうち一幡の車がとび出し、私は道路の左側にもどろうとハンドルを左に切つたが、この間は二メートルもなかつたので単車が一幡車の後部にあたつた旨の供述部分があるが、この事実をも考慮したうえで本件事故をみても被告一幡に道路を横切るに際しての左右の安全確認が十分でなかつたため直進車である原告車の進行を妨げた過失が認められるが(従つて被告一幡の免責の抗弁は理由がない)、一方原告においても前方不注視、左側通行の原則に反し道路中央寄りを進行していた点についてその過失を免れることはできない。

第三損害

一  原告左近兵太郎の損害

1  受傷、治療経過等

〔証拠略〕によれば請求原因三1(一)(二)の事実が認められ、かつ後遺症として主訴又は自覚症状として項部痛、頭痛、頭重感、肩部重圧感、左肩関節痛、他覚症状及び検査結果として頸椎運動制限、神経圧痛点―右大後頭神経、頸椎レントゲンでは外傷による所見認めないが、老化に伴なう頸椎変形認む等の症状が固定(昭和五〇年六月一六日頃固定)した(なお医師の予後の所見としては局部に頑固な神経症状を残す)ことが認められる。

2  治療関係費

(一) 治療費 四八、二四二円

〔証拠略〕によれば症状固定時迄の大阪赤十字病院分として三六、七四二円、同じく〔証拠略〕によれば右時点以降の同病院分として五、五〇八円同じく〔証拠略〕によれば症状固定時迄のマツサージ代として一一、五〇〇円、同じく〔証拠略〕によれば、右時点以降に要したマツサージ代として二五、五〇〇円

を各要したことが認められるが、うち治療費としては各症状固定時迄のものを認容し、他は慰藉料の額算定の際の勘酌事由として考慮する。

(二) 入院雑費

原告左近兵太郎が六二日間入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中一日五〇〇円の割合による合計三一、〇〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

右金額を超える分については、本件事故と相当因果関係がないと認める。

(三) 通院交通費

〔証拠略〕によれば、原告兵太郎は前記通院のため合計一三、六八〇円の通院交通費を要したことが認められる。右金額を超える分については、本件事故と相当因果関係がないと認める。

3  逸失利益

(一) 休業損害

〔証拠略〕によれば、原告兵太郎は事故当時六一才で、株式会社弥生金属製作所にプレス工として勤務し、賞与を除いて一ケ月平均七二、八五〇円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和四九年五月九日から昭和五〇年六月一六日まで休業を余儀なくされ、その間合計一、二一六、九〇五円の収入(一三・三ケ月分の給与九六八、九〇五円と昭和四九年八月と一二月に支給された賞与二四八、〇〇〇円の合計額)を失つたことが認められる。

(二) 将来の逸失利益

〔証拠略〕および前記認定の受傷並びに後遺障害の部位程度によれば、原告兵太郎は前記後遺障害のため、昭和五〇年六月一六日から少くとも三年間、その労働能力を少くとも一四%喪失するものと認められるから右原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、四二九、〇六二円となる。

(算式 一、一二二、二〇〇円×〇・一四×二、七三一)

4  慰藉料

本件事故の態様、原告左近兵太郎の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度、その他諸般の事情を考えあわせると、右左近兵太郎の慰藉料額は、一、三五二、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

二  原告左近ヨネの損害

〔証拠略〕によれば、左近ヨネの損害については、夫たる原告兵太郎の入院期間中及び退院後も昭和四九年七月末日迄はヨネが付添つて看護したことが認められる。

しかしながら、〔証拠略〕によつても医師が付添看護を必要と認めた期間は昭和四九年五月八日から同月二二日までの一五日間であること等に鑑みればいかに付添看護の必要をゆるやかに理解するとしてもせいぜい入院期間内である昭和四九年七月七日までとするのが相当である。

また一日当りの右ヨネが被つた損害についても〔証拠略〕によれば当時ヨネが職業を有していてその主張の如き収入を得ていた事実はこれを認めることができるけれども、これをもつて直ちにヨネの付添看護と相当因果関係のある損害とみることはできない。なぜならさきに認定した原告兵太郎の受傷の程度、内容、年令等からみれば必ずしもヨネの看護に代えて職業付添婦をもつてこれにあたらせることを許さないものではなく、これをもつて十分にその目的を達しうるものと認められるから、看護のためヨネの被つた一日当りの損害と職業付添婦の一日当りの平均賃金をもつてその上限とするを相当とするが、本件の場合これについて明らかでないから、近親者入院付添費として経験則上相当と認められる一日金二、〇〇〇円の割合によることとする。

そうすると右ヨネは六六日間付添つたので合計一三二、〇〇〇円の損害を被つたことが認められるが、右金額を超える分については本件事故と相当因果関係がないと認める。

なお本件程度の傷害にあつては被害者の妻である原告ヨネに右傷害に基づく固有の慰藉料を認めることは相当でない。

第四過失相殺

前記第二認定の事実によれば、本件事故の発生については原告らにも過失が認められるところ、(左近ヨネに対しては兵太郎の過失を被害者側の過失として考慮する)前記認定の被告の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告らの損害(被告より填補された治療費八一三、六五〇円を含む)の三割を滅ずるのが相当と認められる。

第五損害の填補

被告らの主張三(損害の填補)1及び2(一)の事実は、当事者間に争がなく、〔証拠略〕によれば右2(二)の事実が認められる。

よつて原告左近兵太郎の前記損害額から右填補分八二七、九二〇円を差引くと、残損害額は一、九〇五、二五七円となる。

第六弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告左近兵太郎が被告一幡に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は一九〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

第七結論

よつて被告一幡は原告左近兵太郎に対し、二、〇九五、二五七円、およびこれに対する本件不法行為の翌日である昭和四九年五月九日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、原告左近ヨネに対し九二、四〇〇円およびこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 相瑞一雄)

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